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『……やっぱここだろう。球際の寄せが甘い。もっと厳しくいっても良かった』
広瀬と山原が、テレビでサッカーの試合を観ながら話し込んでいる動画だ。
観ている試合は、たぶん粋の最後の試合だ。窓の外は明るい。いつの動画だろう。
『そうですね。この後のパスはいいですけど、ワンツーで戻っていたところのトラップが下手くそだ。……与井先輩、何してんすか』
『おう、サッカー部の奴らに見せてやるんだよ、プロの視点をな!』
『プロの視点って、単なる御坂批評ですよ、これ』
『いや、なかなか鋭い指摘だからな。あいつらも勉強になるはずだ。そうだ、御坂にも見せてやろうか。お、帰ってきたか』
画面が乱れた。与井は録画したまま玄関に走って行ったようだ。
『御坂、おかえり! 芹沢は元気に旅立っていったか? って、お前どうした! 具合でも悪いのか』
しばらくして、乱れていた画像が戻った。
バストアップで映る粋は、顔を歪めて涙をボロボロと零していた。
『与井、寿行っちゃったよ。……パリに行っちゃった……』
画面が真っ暗になった。
『おい、広瀬! やべえ、御坂が泣いてる! 天変地異だ!』
明らかに笑いを含んだ声が聞こえてきた。
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