1794人が本棚に入れています
本棚に追加
『俺どうしよう。こんなに辛いと思わなかった。ヘンク行きたくない、パリに行きたい』
『お前、飲んでるのか? 何だこれ、ウィスキーじゃないか』
広瀬の声と衣擦れが聞こえてきて画面に光が戻った。
少し離れたところから、粋を撮っている。コートの袖で洟水を拭いながら、粋はまだ泣いていた。
『飲みながら帰ってきたのか。それにしても驚いた。お前も泣くんだな』
『広瀬、俺ヘンク行かない。パリのチームに移籍する』
『お前はバカか! いいか、堪えろ! 耐えろ! 泣き言は吐かずに結果で示せ! 大丈夫だ、お前なんていなくても芹沢は十分元気にやっていける!』
言い終わった後、与井は腹を抱えて笑い出した。広瀬も肩を震わしている。
それほどまで、粋の泣き顔がツボに入ったのだろう。
粋に怒られそうだが、寿の顔もつい緩んだ。
『よし! 今日は宴会だ! おい山原、皆に連絡しろ。俺、有休にしといて良かったぜ。感謝しろよ御坂!』
まだグズグズと泣いている粋が、与井に抱きついてきた。動画はそこで終わった。
──頑張れよ! 俺たちはいつでもお前の味方だぞ!
そのあとのメッセージにまた泣き出しそうになった。
面倒見が良くて明るくて気の回る与井にいつも助けられてきた。
与井が手を伸ばして自撮りした写真には、いつものメンバーの笑顔が収められていた。
もう粋は泣いていなかった。
最初のコメントを投稿しよう!