また会う日まで 寿・現在

7/8
前へ
/381ページ
次へ
 芙季の荷物はまだみたいだ。寿は、粋のトークルームを開いて、通話を押した。 「もしもし! 寿? どうした?」  すぐに粋が出た。スピーカーの向こう側で、どよめきが聞こえてきた。 「与井先輩が、粋が酔っ払って泣いている動画を送ってくれたの」 「ええ! ふざけんな与井、消すって言っただろ。消せ、今すぐ消せ! 消さねえんだったらこれだ!」  粋の声がどんどん遠退いていく。いったい、何をしているのだろう。 「もしもし? 粋?」  返答もない。騒がしい声だけが聞こえてくる。  きっと、プロレスをしているのだろう。日本は夜中だ。こんな時間にこんなに大騒ぎをして、苦情が来ないのか心配になった。 「もしもし? 切るよー粋」 「芹沢、待ってくれ」  広瀬が出た。 「どうだい、パリの空気は」 「……寂しいです。できれば、今すぐにそっちに行きたいです。粋には内緒にしてください、きっと心配するから」 「時々、バカどもの写真でも送ろうか。お守り代わりに」 「ぜひぜひ。広瀬先輩も頑張ってくださいね」 「ありがとう。……珍しく与井を倒せたみたいだ。代わるよ、芹沢、けっぱれ」  広瀬は東北の出身だが、今まで一度も方言を出したことはなかった。広瀬の口から初めて聞いた方言に、胸が熱くなる。
/381ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1794人が本棚に入れています
本棚に追加