また会う日まで 寿・現在

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「もしもし、寿? ちょっと待ってて」  ドアを開閉する音が聞こえた。 「部屋に来た。……動画を見た、よな」 「うん、見た。もう大丈夫? ウィスキーを飲みながら帰ってくるなんて。良くないよ」 「もうしないよ。……それにしても、すごい恥ずいよな俺。消すって言ったのに与井のヤツ」 「言ったでしょう、すぐに会いに行くから。準備してたらあっという間だよ」 「年末に会えるかな。一緒に年を越そう」 「楽しみだね。あっという間だよ。すぐに会えるよ」  スピーカーの向こうが静かになった。洟を啜る音が聞こえる。また泣いているみたいだ。 「ごめん粋。今ね、荷物を受け取っているところで、もう行かないとだ。また電話していい?」 「待ってる」  涙声だ。  試合では絶対に泣かないのに、今こんなに泣いている事実が嘘みたいだった。 「粋」  洟を啜る音と一緒に、噛み締めた歯の隙間から漏れたような嗚咽に近い声が聞こえた。 「愛してる」  粋はたまに愛してると言ってくれた。  こんなキザな言葉は恥ずかしくて、今までは寿は口にできなかった。  鼓動が激しい。寿の勇気が伝わっただろうか。 「……うん。俺もめちゃくちゃ愛してる」  なんてこそばゆい愛の告白だろう。  まだ洟を啜っている。 「切るね。また、電話するね」 「うん。おやすみ」  寿は通話を切った。   「おやすみだって」  こっちはこれからランチだ。寿は外から降り注ぐ光を目を細めて見上げた。 「寿、行くよ」  やっと荷物を受け取れた芙季が、税関に向かって歩き出した。 「待って、芙季さん」  あと二週間もかからずに粋にまた会える。  大丈夫、あっという間だ。  一緒に年を越せるなんて夢のようだ。  早く会いたい。抱き締めたい。キスをして欲しい。  視界が滲んだ。  零れる前に拭って、寿は駆け出した。 〈了〉
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