帰国  寿・現在(二)

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 駐車してあった黒いプリウスの助手席に乗り込むと、寿は鞄からスマホを出し、無意識にニュースアプリを開いた。  一度見ると、同じような記事がトップ画面に出てくる。  画面には粋の名前以上に、山森梓の名前が多かった。清純派女優で名を馳せる山森には、今までスキャンダルらしいスキャンダルはなかった。突如湧いて出たスキャンダルのお相手が、ワールドカップで活躍した年下のイケメンサッカー選手だ。各メディアが飛び付くのも当然だった。 「ああそれね。ここのところろくな芸能ニュースがなかったからか、大騒ぎよ」  スマホの画面に映る、粋が山森の腰に手を回す後ろ姿の写真を芙季は指差した。粋は横を向いていて、山森に笑い掛けているようにも見える。 「寿も気になるのね、そういうニュース」  さも意外だといった口振りだった。 「もっと早く帰国してたら、相手は私だったかもよ?」  エンジンをかけながら、不思議そうな顔で芙季は寿を見た。 「私ね、この御坂粋と付き合ってたの。本当は現在進行形のはずなんだけどね。こいつ、私のことを裏切りやがった。私は御坂粋に報復するために帰国したの」  眼鏡の縁と同じ高さだった芙季の眉が、見る見るうちに上がった。
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