怒った仔犬  粋・過去(二)

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「ちょっと怖いけど怒ってても寿は可愛いじゃないか、仔犬みたいで」  同意はできない、そんな顔で部員たちが粋を見た。 「仔犬っつーか、あれは……」 「ドーベルマンだな。ドーベルマンの成犬。しかも、誰にも懐いてない」  部室内に笑いが起こった。  ドーベルマンなんて獰猛な犬には見えない。背は高いが、もっと可憐だ。粋には皆の笑う意味が全く理解できなかった。 「俺たちが練習してるのを一生懸命見てるし、何やらノートに取ってるみたいだし、洗濯してる時も嬉しそうだし。寿はサッカーが好きなんだと思うぜ。俺たちが求めてたのはそういうマネージャーではないのか?」  同意はできない顔は何とも言えない表情に変わった。  粋は気が利かないし、他の部員たちもチヤホヤするタイプではない。男たちにチヤホヤされたいと願うマネージャーは、現状を目の当たりにするとすぐに辞めた。  寿はチヤホヤされたいなどと、微塵も思っていないだろう。純粋にサッカーに、葦沢高校サッカー部に向き合っている気がした。 「今までで一番いいマネージャーだと思うぜ。一人でこれだけの大人数の面倒を見てるんだ。手の空いてるやつは手伝え。特に一年、いいな」  気の抜けた返事が部室に響いた。
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