1788人が本棚に入れています
本棚に追加
/381ページ
「ちょっと怖いけど怒ってても寿は可愛いじゃないか、仔犬みたいで」
同意はできない、そんな顔で部員たちが粋を見た。
「仔犬っつーか、あれは……」
「ドーベルマンだな。ドーベルマンの成犬。しかも、誰にも懐いてない」
部室内に笑いが起こった。
ドーベルマンなんて獰猛な犬には見えない。背は高いが、もっと可憐だ。粋には皆の笑う意味が全く理解できなかった。
「俺たちが練習してるのを一生懸命見てるし、何やらノートに取ってるみたいだし、洗濯してる時も嬉しそうだし。寿はサッカーが好きなんだと思うぜ。俺たちが求めてたのはそういうマネージャーではないのか?」
同意はできない顔は何とも言えない表情に変わった。
粋は気が利かないし、他の部員たちもチヤホヤするタイプではない。男たちにチヤホヤされたいと願うマネージャーは、現状を目の当たりにするとすぐに辞めた。
寿はチヤホヤされたいなどと、微塵も思っていないだろう。純粋にサッカーに、葦沢高校サッカー部に向き合っている気がした。
「今までで一番いいマネージャーだと思うぜ。一人でこれだけの大人数の面倒を見てるんだ。手の空いてるやつは手伝え。特に一年、いいな」
気の抜けた返事が部室に響いた。
最初のコメントを投稿しよう!