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「今日の番頭はユウキちゃんかい。……制服姿で鞄もあるってこたぁ、学校帰りかい?」
「シゲさん、いらっしゃいませ」
銭湯・花の湯と紺の暖簾をくぐると、古式ゆかしい銭湯の番台で、高校生の番頭がにっこりと笑顔を浮かべていた。
「いやぁ、いいもんだねぇ。おやっさんのこわい顔より、若ぇ子のピチピチのめんこい笑顔のほうが、おらたちの一日の疲れも取れるってもんさぁ」
料金のやり取りをしながら、シゲと呼ばれた老人は軽口を叩く。
「あっ、最近はそういうの良くないんですよっ! 男女平等!」
「おやおや。我らジジババのアイドルに叱られちまったよ」
番頭に叱られてもどこ吹く風で、そのままシゲはハッハッハッと笑いながら暖簾(のれん)をくぐる。
「シゲさん、長湯は気をつけてね!」
常連のシゲはさっさと服を脱いで、洗い場へ。
扉をガラガラと開けると、もうもうと湯気と熱気がこもった向こうに、富士の描かれた壁となみなみと湯をたたえた広々した風呂が見える。
だいぶお客で賑わっていて、壁を挟んだ向こう側では子どもたちがキャッキャと騒いでいるようだった。
シゲは空いている洗い場の一角で、顔見知りの若者を見つけた。
「おっ、シゲさんじゃん。今日も生きてたんですね」
「お前ぇもな、アキ坊」
「ちょっと、いつまでその呼び方?」
「おらからしたら、アキ坊はいくつになってもアキ坊さぁ」
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