On your marks

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On your marks

禄太(ろくた)、いい加減にしなさい! ゲームは11時までって約束でしょ」 「ひ……っ」  母さんがデカイ声を出したせいで、人差し指が『h』をダブルクリック。画面では、落ちてきた玉が二度回転して違う色の玉にプヨンと乗った。  もうちょっとで、究極の連鎖が組めるところだったのに……俺はため息をついて両手をキーボードから離した。 「わぁかってるよ」 「わかってないから言ってるの。全くもう、夜中までカタカタカタカタ、その音けっこううるさいんだからね」  母さんの声の方が明らかにうるさいだろ、俺はその正論を呑み込む。それは説教を二倍にする闇の呪文だ。 「明日から運動会でしょ、寝不足じゃ本領発揮できやしないんだから、早く寝なさい」 「……はい」  素直に返事をしたのは、ちょっと、嬉しかったからだ。  明日運動会。母さんは、そう認識してくれている。  でも、うちの中学に関わるほとんどの大人、それに生徒の半分くらいはたぶん、運動会は明後日だと思っているだろう。  明日の午後は「eスポーツ部門」だけが行われる。明後日に開催される「いつもの」運動会の、いわば前哨戦だからだ。 「にしても、ゲームが運動会の競技になるなんて、時代ねぇ」 「ゲームじゃなくてeスポーツ!」 「それをスポーツと認めてくれる中学校でよかったわね」 「二年越しで交渉したからな」
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