On your marks

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 入学したての春、eスポーツを運動会の種目にしてほしいと訴えたら、担任に笑い飛ばされた。埒があかないと判断した俺は、校長に何通も手紙を書いた。在校生から署名を集め、弁論大会でも英語のスピーチコンテストでも、eスポーツをテーマに熱弁をふるった。  ラストチャンスの今年、直談判した俺に、校長は「君の熱意に負けた」と笑った。笑い飛ばされたんじゃない。笑顔で、eスポーツを今年の運動会の種目にすると約束してくれたんだ。 「発案者なんだから、責任持って優勝しなさいよ」  母さんにはっぱをかけられ、俺は唇を尖らせた。 「そういうプレッシャーかけんなよ」 「でも、やる気ではいるんでしょ?」 「そりゃあそうだけど。強いやつも速いやつも他にいるから」 「なんか、スポーツみたいなセリフ」 「だから、eスポーツだってば」 「スポーツ、ねぇ」  視線を横に向けた母さんは、GAME OVERと表示されたPCの画面に目を細めた。 「懐かしいな。私も若い頃ハマってたの、そのゲーム」 「えっ、初耳」 「対戦で負けたことなかったわ」 「じゃあ、やってみる?」 「キーボードでなんか無理よ。昔はコントローラかレバーだったもの」 「俺だって、キーボード(これ)でやり始めたのは今年からだよ」  運動会でやるeスポーツは、専用のコントローラを使わず、マウスとキーボードでプレイするルールだ。出場する選手はみんな、慣れたゲーム機での操作との違いに悲鳴を上げながら、それぞれ練習を重ねてきた。
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