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「ゲームだってさ、こつこつ練習して、作戦練って、頭と体で勝負するんだから。スポーツと一緒だろ?」
今までに散々主張してきた理論を呟いた俺に、「体って、手だけだけどね」と苦笑してから、母さんが深くうなずいた。
「でも確かに、運動会って、五体満足で足が速い子だけが楽しむ行事じゃダメよね」
母さんは、眼鏡でぽっちゃりで背が低い。若い時のことはよく知らないけど、たぶん母さんも、「運動会を楽しめなかった勢」の一人なんだろう。
俺は母さんゆずりの猫背をうーんと伸ばしてから、PC の電源を落とした。
明日の本番で「究極の連鎖」が組めれば、優勝も夢じゃない。本音を言えばもう少し練習したかったけど、寝不足ではパフォーマンスが落ちるのも確かだ。
思春期の男子としてはちょっとモヤるけど、母さんの言うことはだいたい正しい。
「がんばってね、禄太」
「……おやすみ」
不満があるときに、陰でぶつくさ言ってるだけじゃ何も変わらない。そう教えてくれたのも母さんだ。
「ありがとう」って、言えたらよかったんだけど。照れくさくて言えない俺は、せめて忠告に従って、いつもより早めに布団に入ることにした。
決戦は、明日だ。
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