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午後一時ちょうど。俺はPCを抱えて席を立った。eスポーツ部門の会場は多目的室だ。各クラスの選手4人は、5時間目開始までに集まるように言われてる。残りの生徒は教室でそれぞれPCを開き、オンラインで試合を観戦する。
「がんばれよ、禄太!」
「教室から応援してっからな」
「eスポ優勝したら、B組の早峰に告るんだろ?」
「やったれー! 言っちまえー!」
「こーくっはく! こーくっはく!」
3年A組に、俺をからかう告白コールが響き渡る。
「やめろお前ら! 他のクラスにまで聞こえるだろーが!」
俺が足をバタバタさせると、教室は笑いに包まれた。
いったい何故、いつの間に、俺の秘密はこんな公になってしまったんだろう。そそくさと教室を出れば、一緒に出場する寒河江が廊下でにやにや笑いを浮かべていた。
「禄太氏、早峰嬢が見てるでござるよ」
ハッとして顔を向けると、B組の教室から真麻がじっとこっちを見ていた。マスクのせいもあって、その表情はまるで読めない。
「わ、なぁ、さっきの聞こえてたかな」
「早峰嬢が難聴であれば無事でござろう」
「なんだそれ!」
「二人とも、早く行こうよ」
俺と寒河江をせっついたのは、みんなからナルナルと呼ばれている女子、鳴沢だ。遅刻したらシャレにならない。俺はPCを抱え直して歩き出した。
一階にある多目的室へ、ゆっくり階段を下りる。一段ごとに、胸のドキドキが増していく。自分の小心者具合が情けなくなるけど、仕方ない。
だって俺は今から、eスポーツの試合で。優勝したら、真麻に告白するんだから。
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