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(目が合ったの、久しぶりだな……)
幼なじみ、と言っていいのだろうか。真麻とは小1からの付き合いだ。付き合いと言っても、付き合ったことはない。ややこしいけど。
真麻と俺は同じ団地で、一時は毎日のように一緒に遊んだ。晴れと曇りは公園、雨なら家で対戦ゲーム。昔は家族ぐるみで仲がよかったし、互いの部屋にも出入りしてた。けど、中学生になってまで同じようにはいかなくて、最近はもう、「真麻」って呼んでいいのかも分からない。
真麻は優しくて可愛くて成績も良くて、男子に密かに人気がある。告白も何回かされた、らしい。
でも、俺は。ガキの頃から一緒にいすぎて、自転車でコケたり、叱られてべそかいたり、おもらしまで……恥ずかしいとこをいろいろ見られてる。真麻が俺を男として意識してくれてるかなんて、正直自信はないけどさ。
ぶつくさ言ってるだけじゃ、何も変わらないから。
優勝したら一歩踏み出すって、俺は決めたんだ。
「禄太氏」
一階ぶん階段を下りたところで、寒河江が目も合わせず、足元を見たまま話しかけてきた。
「拙者、禄太氏に感謝してるでござるよ」
「へ?」
「毎年、運動会など時間の無駄と思っていたでござるが、今年は初めてちょっとだけ、楽しみだったでござる」
「寒河江ぇ」
「まあ、禄太氏の動機は不純ではござるが」
「不純いうな」
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