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「なんで教えてくれなかったの」
責めるような口調にちかちゃんはうつむいたまま「ごめん」と答えた。
聞きたかったのは謝罪じゃない。わたしはなおも食い下がって理由を知りたがった。
「ねえ、わたしたちって親友だよね? なんで黙ってたの? 離れるなんて聞いてない。これからたくさん遊べるって思ってたのに」
また隠れ家に通って。一緒に音楽を聴いて、マンガを読んで、笑って、たくさんおしゃべりして。
わたしの日々にはちかちゃんがずっといて。
「ねえ、ちかちゃん!」
さらに問い詰めるわたしにちかちゃんは傷ついたように笑った。
「だって……離れなきゃダメになると思ったの」
「なにそれ。意味わかんないよ」
「だって。わたしたち、一緒にいたらダメだよ」
ちかちゃんはまっすぐにわたしを見た。そこにはもう私との決別がにじんでいる。
「好きだと思ったの。でもやっぱりそれじゃだめなんだよ」
「どうして? わたしだってちかちゃんが好きだよ。ずっと友達だって約束したじゃない」
「違うよ。好きなの。恋愛で好きなの。友達なんかじゃない……だからもうだめなの」
ちかちゃんは泣き笑いの表情を浮かべた。
あの隠れ家でのキスを思い出した。ちかちゃんはわたしのことを本当に好きだったからあんなことをしたんだと今更ながらに気がつく。わたしの中途半端な甘さとは違う熱量で。
「大好き。……、だからもうさよならだよ」
「やだ。そんなこと言わないで」
掴もうとする腕をそっと外すと、ちかちゃんは小さく首を振った。
「気持ち悪いって言わないんだね。そういうところがほんとに好きだった。仲良くしてくれてありがとうね」
「ちかちゃん!」
「じゃあね、元気で」
最後にいつもと同じニコニコとした笑顔を見せてちかちゃんは手を振った。バイバイまた明日ね、と別れる時と同じ顔で。
「やだよ、行かないで、さよならなんて言わないで!」
だけどちかちゃんの気持ちにどうむかっていいのかわからない。わたしはただ「いやだよ」を繰り返し、だけど追いかけて彼女を抱きしめることもできなかった。
わたしの「好き」とちかちゃんの「好き」の重さを知ってしまったから。
でもこれが本当に永遠のお別れになるなんて信じたくもなかった。
ちかちゃんはそれからすぐに遠くへと行ってしまった。本当にさよならだったんだと、たった一人の親友を失ってわたしは泣いて過ごした。
何で、ちかちゃん、とそればかり思って。傷ついた自分に酔っていたのかもしれない。
あんなに泣いていたのに春になって新しい生活が始まると、わたしは日常を取り戻していた。
喪失感はいつしか遠くに去っていき、日にち薬はちゃんとさみしさを癒す。新しい環境でまた次の友達ができて、笑って過ごすようになった。
薄情なんだろう。気がつけばかちかちゃんのことを思い出さなくなっていた。今この曲を聴くまですっかりと忘れていたのだから。
―――二度と戻れないohフレンズ 他人よりも遠くに見えて
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