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凍える月と熱い夜
底冷えのする十二月中旬の満月の夜。地平線に沈む濃紺は薄紫を刷いたような神秘的な色をして、白い朧月に近づくにつれ白みを帯びた薄い青になっていた。気温は7℃、ビル風のせいでさらに凍えるほど寒い。
桐原冴子は会社のエントランスから出た瞬間にぶるりと震えた。整髪料でかっちり固めたひっつめ髪を解きたい。胸まで伸ばした髪は、風除けの一つになってくれそうだ。だがしかし、一日働いてしっかり癖のついてしまった髪を解いても、不格好になるのは目に見えていた。
寒い……。寒すぎる。
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