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「礼子さん」
香織が礼子に出来を確認する。
「よし行こう」
香織は涙が溢れた。初めて礼子に認めてもらった。舞台袖に立つ。車椅子は礼子の希望で手動に決めた。
「あっ、礼子さん、一番前の真ん中にお母さんが」
母の律が来ていた。
「香織お前かい、呼んだのは?」
「違います」
「じゃ誰だい。もしかしてあん時の仙人か、余計なことしやがって、やりづらいったらありゃしない」
「お願いします」
スタッフが礼子に声を掛けた。細い腕でハンドリムを回す。拍手が沸き起こる。舞台中央までゆっくりと進む。客席を下から睨み付ける。
「あたいが悪女だって」
律が手を合わせ祈っている。
「あたいが悪女・・・・」
その先が出てこない。涙があふれる。手の甲で眉を擦る。眉墨が歌舞伎の隈取のようになった。
「あたいが悪女に・・・・」
母親の泣き声が聞こえる。礼子の涙も止まらない。
「礼子さんファイト」
袖から香織が叫んだ。観客から自然と拍手が湧いた。
「あたいが悪女だって、笑わせるんじゃないね」
その科白をクリアしてからは完璧に演じた。
礼子の一人芝居は一世を風靡した。そして古希の誕生日を祝った深夜にバルコニーで三日月に見惚れていた。
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