輪廻Ⅱ『眉墨』

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「いいですか、少し酔うかもしれない。船酔いに似ている」  金原の掌が礼子の脳に沈んで行く。沈んだ部分が光を放っている。 「これだ」  金原は小指の先に天寿を絡めた。そして礼子の来世をかた結びにした。指が浮き出てくる。 「さあ、どうぞ、メイクをしてください」  香織がメイクを始めた。 「眉墨はどうしますか?最後はご自分で引きますか?」 「香織がやっておくれ、お嬢さんのようにしておくれよ」 「はい」  引き終わり鏡を見せた。 「お前は世界一のメイクだ」 「礼子さん」  車椅子を抱え込むように泣き崩れた。東の空が赤茶けて来た。 「そろそろだね、なんか気持ちいいよ」 「そうでしょ、天寿を全うすると言うことは神との約束を守り人間の責任を果たすことです」 「生まれ変わったあたしはこの夜のことを覚えているのかね?」 「ほとんど記憶は飛んでしまいます。でもたまに夢で見た光景が浮かびます。それがこの世の想い出なんです」  礼子は頷いて目を瞑った。そして三日月は白くなり消えた。 「礼子さん」  香織は慟哭をしている。  20年後にスター女優が誕生した。 「目標は?」 「私の目標はローマの休日アン王女役がやりたいです」 「チャームポイントを教えてください」 「うーん、鼻です」 「それじゃ一番嫌いなとこは?」 「あんまり言いたくないんですけど眉です。眉は自分で引くんです」  香織はベテランメイクとして活躍していた。そしてその新人女優の担当になっていた。 「礼子さん、礼子さんだ」  インタビューが終わりメイクを直す。じっとその女優を見つめる。 「なんかついていますか?」 「うんう、私にいつか眉墨を引かせてください」 「そうね、悪役が似合うようになったらね、悪女の夢をよく見るんです」 了    
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