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「恐いのかお前、だったら一人でここに残りな」
礼子一人を乗せるわけにはいかない。香織は支度した。バスは走り出した。深夜になり更に吹雪が強くなった。ドライバーがパニックになった。
「おいあんた、あたいを殺すつもりじゃないだろうねえ、あたいは女優だよ。こんなとこで凍死なんて嫌だよ」
礼子に言われると尚更焦る。灯が見えた。
「あれだ、道路だ」
川も道路も見分けが付かない。運転手は橋の欄干に灯る外灯の下が道路と勘違いしてそこに向けてアクセルを踏んだ。ガタンと前輪が下がりそのまま土手を転がった。堤防に当たりバスは大破した。香織が息を吹き返した。何とか窓から這い出た。ドライバーは死んでいる。
「礼子さん、礼子さん」
香織の声に気付いた。
「足が痛い」
両足の太腿が折れた車体に挟まっている。香織が引っ張るが外れない。
「いいよ香織、あたいの足はもう駄目さ、足がなきゃ舞台に立てないよ」
「今助けを呼んで来ます」
香織は携帯で助けを求めようとしたが電波は届いていない。土手の上から灯を見つけて走った。
「神様、今度生れてくるときはお嬢さん役が似合う女にして下さい。悪女は地獄ですか?ごめんなさい」
手を合わせた。
祈りを捧げて気を失った。礼子の額に人差し指が当てられた。天中から山根までを読んだ。
「まだ残りは随分とあるな」
礼子の祈りが金原仙人に通じたのである。意識のない礼子を抱擁した。金原が上昇するとき礼子の足がスルスルと抜けた。そして土手の上に寝かせた。
「何すんだよ、どさくさに紛れて」
金原の頬を平手で張った。
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