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「お母さんですね、残念ですが娘さんは脊髄を損傷しています。手足が麻痺しています。もう立って歩くことも、もしかした箸を使うことも出来なくなるかもしれない」
医師がはっきりと引導を渡した。
「もう舞台に立てなくなるんですか?」
「残念です」
「先生、殺してやってくれませんか、あの子はこのことを知ったらどうせ生きちゃいませんよ。痛くない様にそっと眠っているうちにお願いします」
「お母さん、脳はしっかりしています。このような障害を持っても一生懸命生活されている方がたくさんいます。娘さんもきっと出来る」
医師も極端な価値観で迫る母親を説得するために美談で応戦する。
「手足の無い悪女なんて羽の無い天使より不憫だね」
律は立ち上がり屋上に向かった。
「煙草あるかい」
「はい」
香織が差し出した。
「あんたこの子のマネージャーか」
「いえ、付き人でメイクです」
香織が百円ライターを擦った。
「そんなこといいから、医者はなんて言っていたんだい?」
礼子は律に怒鳴った。
「悪女から手足も捥ぐらしい」
律が言って沈黙が続いた。
「礼子さん、きっと治りますよ。あたしずっと一緒にいますから」
香織が半べそで言った。
「うるさいよ、お前はもう首だよ。舞台に立てないのにメイクも要らねえだろう」
礼子が北風に震えた。香織が乱れた膝掛を直した。自分のマフラーを外して礼子の首に巻いた。
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