輪廻Ⅱ『眉墨』

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「お前、体温だけは合格だ」  病室に戻ると男がいた。 「あっ、あの人だ、事故の時逃げた人」  香織が指差した。 「逃げたとは失礼だな」 「だって逃げたじゃない」 「いいから香織、あんたに話があるの、香織廊下に出ていて」  香織は渋々廊下に出た。 「礼子さん、なんかされたら大声で叫んでくださいよ」  廊下に出る際に一言付け加えた。 「不思議なんだよね、折れた車に挟まったあたしを助けてくれたのが。警察も言っていたよ、車が折れたまま足が抜け出る訳がないって」  礼子は金原をじっと見つめて言った。 「大女優に見つめられると照れるな」  金原は焦げ茶色のハンチングを脱いで頭を掻いた。天井クロスの裂け目から癪が出て来てフケを食い漁る。 「あっ蛾だ、でっかい蛾だ、香織、香織」  香織が入って来た。箒を持って癪を追うがクロスの裂け目に消えて行った。 「あんな蛾は初めて見た。田舎じゃ外灯にデカいのがとまっているけど、ああ気持ち悪い」  礼子が肩を揺すった。 「悪い虫じゃない、仙人の垢を喰らう癪と言う虫だ」  礼子と香織はおかしなことを言う金原を睨んだ。 「まあいいさ、さっきの話の続きだよ、どうやってあたしを助けたんだい?」 「その前に私の正体を明かしておこう。彼女はいいのかな?」 「もういいさ、これからあたしの手足になる子だよ、一身一体だよ」  金原は名刺を出した。 「金原武、仙人?」 「そう、だからあなたを救えた」 「あんた役者だろ、あたしより悪役が似合うよ」  信用していない。      
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