6人が本棚に入れています
本棚に追加
「お前、体温だけは合格だ」
病室に戻ると男がいた。
「あっ、あの人だ、事故の時逃げた人」
香織が指差した。
「逃げたとは失礼だな」
「だって逃げたじゃない」
「いいから香織、あんたに話があるの、香織廊下に出ていて」
香織は渋々廊下に出た。
「礼子さん、なんかされたら大声で叫んでくださいよ」
廊下に出る際に一言付け加えた。
「不思議なんだよね、折れた車に挟まったあたしを助けてくれたのが。警察も言っていたよ、車が折れたまま足が抜け出る訳がないって」
礼子は金原をじっと見つめて言った。
「大女優に見つめられると照れるな」
金原は焦げ茶色のハンチングを脱いで頭を掻いた。天井クロスの裂け目から癪が出て来てフケを食い漁る。
「あっ蛾だ、でっかい蛾だ、香織、香織」
香織が入って来た。箒を持って癪を追うがクロスの裂け目に消えて行った。
「あんな蛾は初めて見た。田舎じゃ外灯にデカいのがとまっているけど、ああ気持ち悪い」
礼子が肩を揺すった。
「悪い虫じゃない、仙人の垢を喰らう癪と言う虫だ」
礼子と香織はおかしなことを言う金原を睨んだ。
「まあいいさ、さっきの話の続きだよ、どうやってあたしを助けたんだい?」
「その前に私の正体を明かしておこう。彼女はいいのかな?」
「もういいさ、これからあたしの手足になる子だよ、一身一体だよ」
金原は名刺を出した。
「金原武、仙人?」
「そう、だからあなたを救えた」
「あんた役者だろ、あたしより悪役が似合うよ」
信用していない。
最初のコメントを投稿しよう!