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「あんた本当に仙人なの?」
「嘘ついてもしょうがない」
「だったら礼子さんの足を元に戻してください」
香織が強く言った。礼子は金原の答えを期待している。
「残念だがそれは出来ない。あの事故は神の想定で起きた。あなたの身体はこうなる運命にある。運命は変えられない。しかし天命は充分にある。先日計らせてもらったが普通に生きる」
礼子は金原の答えにがっかりした。序だから治してやろうとハッピーエンドのドラマ定番とはいかなかった。
「やっぱりあんたはあたし以上の悪役だ」
礼子がふて科白を吐いた。
「売れっ子に褒められるとは嬉しいような寂しような」
「あたしの祈りが通じたって言ったけどあたしが生まれ変わればお嬢さん役の似合う役者にしてくれるのかい?」
「ええ、それは約束しましょう。ただし天寿を全うしなければ叶わない」
「ほら見ろ、あたしがその窓から飛び降りて死んだら約束は反故にするつもりだろ」
「そう、それどころか地獄に落ちて辛い毎日を送ることになる。神の想定に逆らうことは出来ない。頑張って生きていればいいことがある。あなたにはお嬢さん役の女優に転生することが約束されている。どうですか、一生懸命に悪女の役を熟してみては」
「まだ長いね」
「ええ、まだ長い」
「嫌なことがたくさんあるだろうね」
「ええ、でもいい事も少しはある。そのいい事が生きる喜びを与えてくれる。今日お母さんと会えたのもそのひとつです。人生と言う紐の縒りがひとつ戻った」
一年間のブランクを乗り越えて加賀礼子は舞台復帰することを宣言した。足は神に奪われた。手は幸いにもまだ使える。舞台は独り芝居である、自分で脚本した。タイトルは『悪女の締め括り』半年の稽古を重ね初日を迎えた。
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