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「お前も変わってるよ、どうしてあたしなんかに付いて来たんだい。大女優から声が掛かった時にどうして行かなかったんだい。お前は自分の一生を台無しにしたんだ。親孝行し損なったんだよ」
「礼子さん喋らないで」
メイクの最中である。眉墨以外のメイクは終わった。礼子は入念にチャックしている。
「いいだろう」
「ありがとうございます」
スタッフが楽屋に入って来た。
「礼子さんそろそろです」
「客入りはどうだい?」
「正直前売りががっちり残っていたんで心配していたんですが、喜んでください。満員です」
「やった、礼子さん凄い、礼子さんのファンは隠れファンだから前売りは買わない、お忍びのように来るのよ」
香織が飛び上がって喜んでいる。スタッフが一礼して楽屋を出た。
「さあ礼子さん時間がありません、眉墨をお願いします」
礼子はこれまで眉墨をメイクにひかせたことはない。香織がペンシルを差し出した。
「お前が塗るんだよ」
「えっ」
「お前に塗ってもらいたいんだ」
「礼子さん、はい」
礼子の眉に触れるのは初めてだった。
「いいかい、最初の科白は『あたしが悪女だって、笑わせるんじゃないね』だよ。それに負けない眉を引いておくれ」
香織も科白は全て記憶していた。礼子になったつもりで眉を引く。
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