笠位浩人の告白

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笠位浩人の告白

 俺達の住む木庭町は、ちょうど真ん中に大きな川が流れて二分されている。南側は普通の住宅街。北側は小さな町工場の集まる工場地帯。  俺と朝美の家は隣り合っていて、どっちも町工場だった。朝美の親父さんの工場は順調な経営だったが、俺の家は小学六年生の時に倒産した。 「だっさい町工場だとしても、一応は社長夫人だっていうから我慢出来たのに!」  母さんは経営破たんにショックを受けて、鬼のような形相でそう喚き散らした。それからは「ご近所のママ友に落ちぶれた自分を見られたくない」って家に閉じこもるようになってしまった。家では毎日、父さんと母さんが口喧嘩していた。  家にいるのが嫌で、俺は朝美の家の庭に逃げるように、毎日そこで過ごしていた。ある日、ストレスが限界で、自分の家の現状を朝美に嘆いたんだ。 「おかしくなっちゃったんだとしても、うちのお母さんと違って家にいてくれるだけマシなんじゃない。浩人のお母さんだって、そんなに家が嫌なら出てった方が楽になるかもしれないのにね」  朝美のお母さんは、俺達が四年生の時に家を出た。朝美がそれを悲しんでいる様子は見せなかったけど、当時の俺はそれを憐れんでいた。まだ、自分ちの工場の経営も傾いていなかったから、他人事だったんだ。  勝手すぎるんだけど、俺は藁にもすがるような気持ちで、朝美にようやく打ち明けたんだ。それで、俺の望むような答えで慰めてくれないからって理由で、朝美に当たり散らした。救いようのない、バカなガキだったんだ。  物心つく前どころか、赤ん坊の頃から一緒に育ったような仲だったのに。俺と朝美の友情はその日を最後に打ち切りになった。  もちろん、経済的な事情の方が大きいけど。朝美と同じ高校に通うってなるとあまりに気まずくて、俺は木庭高に進学しなければと頑張るしかなかったんだ。
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