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「覚えていたのは僕と、彼女の親友だった田中りょう子さんと、名吹栄一。田中さんはもちろん、親友がいなくなっちゃったわけだから大泣きしてたよね。
栄一は一度こっちの世界に来ちゃって、涼原さんが見つけてくれたおかげですぐに元の世界へ帰してもらえたんだって本人は言ってる。それで弓姫様の事情を教えてもらったらしいんだ。
幸運だったし、僕と違って元の世界に帰りたいって思ってたからこそ、涼原さんは助けてあげたんだろうね」
りょう子とは同じ小学校だった。駅前の、街で一番高いタワーマンションの上階に住んでて、父親は有名人で母親は女優。両親の遺伝で可愛らしい顔立ちだけどきりっとした性格までは受け継げなかったらしく、どんくさい奴だ。
それで同級生の女子からは嫌われたり避けられたりいじめられたり。朝美はそういう女子の派閥に一切興味もなく関わらないし、一緒になっていじめられるほど弱くもない。
だからりょう子はずーっと朝美にべったり懐いてて、急にいなくなったとなればそりゃあ泣くだろうな。
名吹? とかいう奴は知らない。たぶん俺達の町に住んでなくて、電車かなんかで通学してるよそ者なんだと思う。
「……なんで、雅志は覚えてたんだ?」
朝美や雅志が通う私立城参海大付属高校は中高一貫。そこに通っている、俺の知らない五年間の間に、親しい仲にでもなってたんだろうか。
「絶対振り向いてくれないだろうけど、僕は彼女が好きだったから。この世界に呼び寄せられたのも、もしかしたらそのせいかもしれないね」
「家族に希望が持てないっていうのもなんでだよ。今更だけど、俺よりずっと成績良かったのに、わざわざバカ高に進学したのもわかんねーし」
数年振りの再会だから、昔から気になってたことをここぞとばかりに訊ねてしまう。
雅志達の通う学校は偏差値が低く、地元じゃ「バカ校」と呼ばれてる。公立中学に通っていた俺は、家の経済的事情で私立には行けない。だから中学時代に必死で勉強して、進学校とされる「県立木庭高校」に進学した。
小学校の時点で、とはいえ、雅志は俺や他のクラスメイトと抜きんでた成績だった。お世辞でなく、木庭高校にだって余裕で受かるはずなんだ。
「聞いたらどん引きすると思うんだけど。犯罪がらみだし死人も出てるし。でも、別の時空に来た以上はもう関係ないよね」
そんな前置きで話し始めた雅志の告白は、それはそれは恐ろしい話だった。異時空に飛んじゃいました、なんて、ある意味夢のある非現実とは桁外れ。空想であってくれよと言いたくなるような、残酷すぎる現実だった。
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