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異時空転移
「おふたりさん、異時空から来たのかい? お気の毒だねぇ。この世界はあと百年でなくなっちまうんだよ」
昨晩、いつも通りに布団で寝て目覚めたら、俺は別の世界に来ていた。
この世界はある意味では人類文明はとっくに崩壊し、見渡す限り草原と、人々が牧歌的に暮らす集落が点在する。戦争もないユートピアみたいなものだった。
厳密に言うと「別世界・異世界」ってわけじゃないらしい。俺達の生きていた世界の別の可能性で、「異時空」ってやつなんだとか。細かいカテゴリの違いなんかどうでもいいっちゃいいんだけど。この状況を好転させる上で何の手助けにもなりゃしないからな。
「どうしてこの世界はなくなっちゃうんですか?」
親切な現地人の中年女性にいたって平静に問いかけるのは、俺と同じくこの世界に来ちまった湖月雅志。小学校までは同じ、同級生だった。中学からは俺が公立、雅志が私立で別々になった。
こっちの世界にはこの世界を創造した太陽竜とかいう最高神がいた。でも、その神様は今から三千年前に亡くなった。
「太陽竜様を失ってから三千年も保ったんだから、良く持ちこたえてくれたもんだとは思うんだけどねぇ。いよいよ太陽も限界で、あと百年ほどで爆発するんだそうだよ」
なるほど。俺達の世界との「可能性の違い」ってやつはそこなのか。俺達の世界には太陽竜なんかいなかったから、同じ時代であっても太陽はまだ爆発しない。俺達の世界の太陽の寿命は残り五十億年もあるって推測がされてたはず。ほんの数日前、うちの高校の科学の教師が授業の合間の与太話でそんなことを言っていた……太陽がなくならなかったところで、そこそこ大きな隕石に激突でもされたら地球上の生物も滅びるだろうけど。
「残念がってもらえたところで恐縮ですけど、あと百年でなくなることを残念がる気持ちが僕にはわからないなぁ」
俺も同じ意見だ。だって、元々俺達人間の寿命は、百年も生きられたらむしろ長いくらいなんだし。世界がなくなるのが百年後だっていうなら、それまでに俺達はとっくに死んでないか?
「この世界の人類は、大賢者ミモリ・クリングルの発明で、神々の力に頼らず命の永久機関を実現してね。一度生まれたら永遠に近い時を生きられる体になったのさ」
あまりにも荒唐無稽な話に、俺と雅志は顔を見合わせる。
「なんでだろう。あんまり羨ましいって気がしないなぁ。元いた世界の感覚からすると。永久に生きられるっていうのも」
「僕も……」
生きるっていうのは楽しいばかりじゃなくしんどさもそこそこあって、適当なところで寿命を迎えて終えられるからこそ、辛うじて耐えられる。そんな側面があるんだと思う。
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