ふたりの決闘

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斬る。(かわ)す。斬りかえす。防御する。 幾度このやりとりを繰り返しただろう。 幼い頃に戻ったように、ただ無心に、アルコルはミザルとの戦いを楽しんでいた。 永遠に続けていたいと思うほどに。 ……けれど、何事にも終わりの時間は必ず訪れる。 きっかけは、ほんのわずか足が滑り、アルコルの体勢が崩れたことだった。 ミザルはその一瞬を見逃さず、剣を構えアルコルの懐に飛び込む。 切っ先がアルコルの身体を刺し貫いた。 「アルコル……」 白い礼服が、暗い赤に染まっていく。 呆然とするミザルに、アルコルは優しく微笑みかける。 「……ミザ……ル」 本当は、アルコル自身がいちばんよくわかっていた。 自分には、王としての資質も器量も備わっていない。 ミザルなら、自分よりもっと広い視野で物事を見据えることが出来る。 けれど、ただ一度でいいから、お互い全力で戦ってみたかった。 それが叶った今、もう、思い残すことはない。 「あり……が……とう」 自分を責める必要なんてない。 この結末を、人生の重荷にしないでくれ。 次の王にふさわしいのは、ミザルだと俺も信じているから。 そう伝える力はもう残っておらず、ミザルの腕の中で、アルコルは瞼を閉じた。 「勝者……第三王子、ミザル!」 すべての音が、遠のいていく。 あとに残ったのは、永遠の静けさだけ。 【完】
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