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試験後半になってくると、次第に脚が重くなってきた。
息が苦しい。けれど今は考えるな。
目の前のターゲットひとつひとつを、確実に斬ることだけに集中しろ。
そう自分に言い聞かせ、アルコルは駆けていく。
ゴール寸前、アルコルは先頭を走るミザルの背中を捉えた。
……おかしい。
ミザルなら、もっと早くゴールしていてもいいはずなのに。
かすかな違和感を覚えながらも、必死に脚を動かしアルコルはミザルに並んだ。
ゴールを目指し、ふたりは全力疾走する。
ほんのわずか、先にゴールテープを切ったのは、アルコルだった。
発表された最終順位は、アルコルが1位、ミザルが2位。
「トップ通過、おめでとう。アルコル」
「ありがとう」
アルコルは無理やり笑顔を作り、差し出されたミザルの手を握る。
もしかしたら、ミザル本人も気づかぬうちに、手加減していたのだろうか。
第二王子の自分に遠慮して。
幼い頃からの夢をふたり揃って叶えたこの日、芽生えたわずかな疑念は、近衛兵になってもずっと、アルコルの心から消えてくれなかった。
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