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一緒に夢を叶えたミザルを、心のどこかで疑っている醜い自分。
近衛兵のままであれば、目を背けていられるはずだった。
けれど、ある日、ふたりの運命を変える知らせが届く。
……それは、“メラク、急死”の報だった。
次の王になるのは誰か。
王者の資質を持つ兄の不慮の死に、北の国は揺れた。
メラクと同じく正妃の子である自分を推す保守派。
対して血筋よりも能力を重視すべき、とミザルを推す革新派。
両勢力は激しく対立し、宮廷は不穏な空気に満ちていく。
アルコルとミザルを置き去りにして。
死後数日たってからメラクの国葬が行われ、遺体は荼毘にふされた。
広場に響くのは、祈りの言葉と、大勢の人々がすすり泣く声だけ。
父の後を継ぐのは、メラクしかいない。
ずっとそう信じて生きてきたのに。
こともあろうに自分たちを次の王として担ぎ上げ、宮廷内の対立は日に日に激化している。
このまま放っておけば、血で血を洗う抗争が起こりかねない。
「ミザル」
「なんだ?アルコル」
「兄上を見送ったら、父上に神前決闘を提案しよう」
「国を護るには、それしかない……か」
兄が愛したこの国を護るために、どちらが王にふさわしいか、ふたりだけで答えを出そう。
「ああ」
兄の高貴な魂が、煙となって天にのぼっていく。
青空を見上げるふたりの瞳から、ひとすじの涙がこぼれ落ちた。
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