魔法特別段記

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 彼女が生きていた事に喜んだ。夢なんかじゃないし、幻想でもない。確実に彼女が現在目の前に居たんだ。きっと並行世界なんだろう。  今見た事を僕は強く考えた。単純な時空魔法ではない。彼女と僕を繋ぐ情報があったから、並行世界への扉となったのだ。  解り始めると次々と理論を重ねる。時空魔法に魔法石を陣と呪文で増幅させる。そして彼女と繋がる為の情報を加えたら、彼女を連れ戻す事は不可能じゃないと解った。 「もう戻ったのか。なんだか騒がしいな」  研究室では先輩が居た。慌てる僕の事を気にしていたが僕は無視をして魔法の文献を引っ張り出した。それは協会の使う魔法陣に関する本。強化できるのはあちらの魔法なのだから。  加えて魔法の力が強くなる時も加味させる。その時なんて解らない。だけどヒントは有る。魔法は誰かが強い魔法を使ったら相乗効果で強くなる。戦争をメリットにする。  定時戦闘の予定が有った。とある荒野での戦闘が予告されそれは協会にも通達されている。その時はきっと強い魔法が磁場の様に渦巻くだろう。僕はその時に彼女を連れ帰る。特別な一日になるのだろう。  効果的な魔法を組み立てる。連合や協会の手法によるものだけでなく、様々な魔法を組み込んだ。そして僕の理論は完成した。 「あれ? そっか、そうなるのか。まあ、良いや」  一つ問題を思い付いたが、そんなに重要な事ではなかった。残るは時を待つだけになる。  時間が有るので更に力を有効的に使おうとバージョンアップを試みる。魔法石、と言えどそれは世間では宝石と言われるものだが、それもより上質なものを買った。エメラルドにサファイアやトルコ石と鉄鉱石等々。結構な出費となる。しかし、研究職としての稼ぎをつぎ込んだらどうにかなった。  そしてその日が訪れた。僕は戦争の現場の片隅の安全なところに時間前から準備を始める。特別な一日になるのだと僕は信じていた。 「念には念を。惜しんでも仕方がない」  普通、魔法陣は貝殻を使ったチョークで描く事が多いらしい。生き物の遺骸となるものには魔法の力になる。だけど、僕はそれ以上のものを求めるので、実際の貝殻や化石を集めて、それで魔法陣を造った。こんな方法も文献にあったもの。  準備が整ってその時が訪れるのを待つ。僕が準備を整えている間に戦争は始まった様子で、魔法による爆発音なんかが聞え始めていた。  そんなに遠くない場所で人々が殺し合いをしている。魔法の力は強くなっている。それが解るくらいに空気がヒリヒリとしていた。 「頃合いかな」  魔法の力が一層強まった事が読み取れる。かなり強い戦士同士が戦っているんだろう。僕は魔法陣に向かって更に魔法の力が増幅するその刹那を待つ。  すると、風が吹いた気がした。それは実際の空気が流れた訳ではない。強い魔法の力が空間を揺らしたのだった。時が訪れた。  僕は最後に自分の想いの彼女に会いたいと言うことを情報として魔法に含める。僕の想いは僕自身だから、ナイフで腕に傷をつけ血を落とした。そして呪文を唱え、更に魔法陣に向かって古代語で文字を描いた。これも古い魔法。  魔法が発動して、陣が震えている。魔法石さえも砕けそうになっていた。そして、強い光が放たれる。  魔法陣の上に扉が現れた。  その時に辺りが寒くなって、夏の終わりだと言うのに空からは雪が舞っていた。これは僕の魔法の力ではない。さっきの強い魔法の効果なんだろう。雪は視界もなくなるくらいに振り続けていた。  だけど、僕はそんな事を気にしている暇なんてない。僕は目の前の扉を開いた。その向こうには彼女が居た。 「迎えに来てくれたんだね。信じてたよ」
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