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翌日、重い足取りでスーパーマーケットに向かっていた。
試行錯誤したが、眼鏡に着いたチェーンはどうやっても外れなかった。
仕方なくそのまま掛けて来たが、こんな物を着けている老人を、すれ違う人々が笑っているような気がして気恥ずかしい。
あの店があったはずの場所には、『テナント募集』の張り紙がしてあった。
一体あの店は何だったのか……。
スーパーマーケットに着き、食材をかごに入れていつものように無人レジに向かう。
バーコードをレジにかざしていく。
今までは間違って同じ商品のバーコードを2度読み取ってしまうこともあったが、今日は大丈夫なようだ。
全ての商品のバーコードを読み取った。
難関はここからだ。
次に押すボタンは何だったかな?
その時、目の前に赤い丸印が現れた。
【このボタンを押してください】
視界に大きな文字が浮かび上がり、赤丸は、『紙幣を投入する』と書かれた部分を囲っている。
私は躊躇いながらもそのボタンを押す。
【次にこのボタンを押してください】
赤丸は、『清算する』の部分を囲っている。
何ということだ。
今日から無人レジにこんな新機能が搭載されたのか?
清算を終えてレシートを取ると、大量に積み重なったかごをキャスターに乗せて押している真理ちゃんがちょうど通り掛かった。
「あら孝三さん、こんにちは」
私に笑顔を向ける真理ちゃん。
「こんにちは。
無人レジに新しい機能が搭載されたお陰で、迷うことなく清算出来たよ。
いやぁ、メカの進化は底無しだね」
「新機能って?」
真理ちゃんが不思議そうな顔をする。
「ほら、押すボタンを赤丸で囲ったり、大きい説明文が浮かんだり」
「……?そうなんですね?
あら、お洒落なチェーン。似合ってますよ」
真理ちゃんは笑顔でそう言った。
「いやあ、お恥ずかしい。
私のような老人でも、日常にえっせんとを取り入れようと思ってね」
「嫌だ、まだまだお若いですよ」
真理ちゃんは笑顔でペコリと頭を下げ、積み重なったかごを入り口の方へ運んでいく。
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