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「さるカニ合戦の真の黒幕は柿の種であることを、俺は、ここに提唱するっ!」
熱量高く聞こえてきた乾比呂の声に、わたしは、うっすらと目をあけた。首と肩が痛い。机にうつ伏せで眠っていた。
うららかな陽気が、放課後の教室にひろがっていた。高校二年生の今、みんな、部活や恋愛に忙しい。わたしたち以外、教室には誰も居なかった。
体を起こす。ぐっと一つ背伸びをする。
今日は、わたしにとって特別な一日になるはずなのだ。その相手をつとめるのは、乾、お前ではない。
真正面で仁王立ちする乾に、言い放つ。
「うるさいよ」
「起きたか、白川鈴」
「起こす気満々だったんでしょ」
「まぁ聞けよ」
乾が、さっと両腕をひろげた。びゅっと風が教室に吹き込む。乾の後ろで、白いカーテンがぱたぱたとはためく。
「物語ってのはなぁ、書かれていないことが重要なんだよ!」
「そういうのって、拡大解釈とか、根拠なき妄想っていうんだよ」
両腕を下げた乾が不敵な笑みを浮かべた。めげない男だ。
「順番にいこう。さるカニ合戦の元をただせば、おにぎりを持っていたカニと、柿の種を持っていた狡賢いさるの運命が交錯するところから始まる」
「え、その話長い?」
「いや、意外と短い!」
「あー、長いな。多分長い。さるかに合戦は短くても、乾の話が長そう」
「ウィキペディアによると、カニは、最初、嫌がったそうだ」
噛み合わないのに話が進んでいく。いつものことだ、とわたしは乾を生暖かい目で見守った。
こいつ、こういう時が一番生き生きしてるよなぁ。
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