猿蟹合戦を終えて

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 乾は、いつのまにかスマホを手にしていた。芝居がかった仕草で、内容を読み上げていく。 「猿は言った。 『おにぎりは食べてしまえばそれっきりだが、柿の種を植えれば成長して柿がたくさんなりずっと得する』と。 カニはおにぎりと柿の種を交換し、こう唱えながら、庭に種を撒く── 『早く芽をだせ柿の種、出さなきゃハサミでちょん切るぞ』」 「え、ちょっと待って。このあと、猿は柿の樹にのぼって、カニに柿をぶつけるんでしょ」 「ああ」 「……じゃあ、例の柿の樹って、カニが育てたの!?」 「そうだとも! 自分の墓穴掘ってる感、エグかろう?」    乾がめちゃくちゃ嬉しそうな笑顔を見せてくる。乾の手柄ではないのに。いや、乾の手柄なのか?  差分に気をとられていると、乾が、またマイペースに話を展開しだした。 「しかし! 俺が言いたいのは墓穴云々ではなく、この種に関する考察だ」 「なるほど?」 「重要なのは、脅された次の瞬間、種が芽を出したところだ。カニに脅されて、芽を出し、あまつさえ驚異の速度で成長した! この童話の中で、この種だけが異質なんだ」 「そもそもの話、カニと猿が会話してる時点で相当あれよ?」 「それは擬人化ってやつだ。その世界観を以てしてなお摩訶不思議パワーを持つこの種だけが、お話のルールから外れている。ところで、白川はハリガネムシという虫を知っているか?」
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