煙草、黒猫、朝のベランダ

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「わたし、ルキくんの煙草になりたい」 サチエ先輩はそう言った。 ベランダに立って遠くを見つめて、煙草を静かにくゆらせて。 あたしは苦笑して言った。 「なに言ってるんですか」 紫煙は細くたなびいて、朝の空気に溶け込むように消えていく。 「だって煙草になったら、ルキくんにキスしてもらえるじゃない」 「意外と乙女チックなんですね」 「そうです。わたしは乙女チックなのだよ。知らなかった?」 振り向いた先輩の耳元に、ピアスが光る。 短パンからのぞく、むっちりとした太もも。 日光にさらされた先輩のすっぴんは、眉が短くて、目がいつもより小さい。 黒目がちで、あざらしの子供みたい。 少し乾いた、赤い唇。 きのうあたしは、この唇とキスをした。
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