7人が本棚に入れています
本棚に追加
気が付くと朝だった。
あたしは、ぼんやりと起き上がって、「ここはどこだっけ」と思った。
ベランダをのぞくと、掃きだし窓を開けたまま、煙草を吸う先輩の後ろ姿が見える。
そうだ、サチエ先輩のアパートに泊ったんだ。
「その煙草。ルキ先輩と一緒の銘柄ですね」
あたしが目ざとく見つけて言うと、サチエ先輩はほほえんだ。
「気付いちゃった? 真似して買ったんだ」
窓の外は朝焼け。
まだらに赤く染まった雲に、連なる屋根瓦、でんしんばしら、駐車場、スーパーの看板なんかが見える。
そんな景色の中に、ゆるやかに煙草の煙が立ちのぼる。
「あたしは、ルキくんの煙草になりたい。だってキスしてもらえるじゃない」
「意外と乙女チックなんですね」
あたしは、おなかの中で考える。
煙草になんてなったら、煙になって消えちゃうのに。
サチエ先輩は、きっとただ、ルキ先輩に気にかけてほしいだけなんだ。
ルキ先輩の目の前で、誰かにキスをして。
こっち見て、こっちに気づいて、って心の中で叫んでる。
何も言えないで馬鹿みたい。
サチエ先輩は、多分知らないはずだけど、あたしはルキ先輩と一度だけ寝た。
だからルキ先輩とキスしたいなら、サチエ先輩は煙草じゃなくて、あたしになりたいと思うべきだ。
もしもサチエ先輩があたしになったら、じゃあ、あたしは?
あたしが代わりにサチエ先輩になろうかな。
最初のコメントを投稿しよう!