煙草、黒猫、朝のベランダ

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気が付くと朝だった。 あたしは、ぼんやりと起き上がって、「ここはどこだっけ」と思った。 ベランダをのぞくと、掃きだし窓を開けたまま、煙草を吸う先輩の後ろ姿が見える。 そうだ、サチエ先輩のアパートに泊ったんだ。 「その煙草。ルキ先輩と一緒の銘柄ですね」 あたしが目ざとく見つけて言うと、サチエ先輩はほほえんだ。 「気付いちゃった? 真似して買ったんだ」 窓の外は朝焼け。 まだらに赤く染まった雲に、連なる屋根瓦、でんしんばしら、駐車場、スーパーの看板なんかが見える。 そんな景色の中に、ゆるやかに煙草の煙が立ちのぼる。 「あたしは、ルキくんの煙草になりたい。だってキスしてもらえるじゃない」 「意外と乙女チックなんですね」 あたしは、おなかの中で考える。 煙草になんてなったら、煙になって消えちゃうのに。 サチエ先輩は、きっとただ、ルキ先輩に気にかけてほしいだけなんだ。 ルキ先輩の目の前で、誰かにキスをして。 こっち見て、こっちに気づいて、って心の中で叫んでる。 何も言えないで馬鹿みたい。 サチエ先輩は、多分知らないはずだけど、あたしはルキ先輩と一度だけ寝た。 だからルキ先輩とキスしたいなら、サチエ先輩は煙草じゃなくて、あたしになりたいと思うべきだ。 もしもサチエ先輩があたしになったら、じゃあ、あたしは? あたしが代わりにサチエ先輩になろうかな。
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