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第1節 歪な二人
「うっわくっさ……!」
私は思わず顔を顰めて、鼻を片手で摘んだ。シッシッと臭いを追い払う。私の激しい拒否具合に、彼氏は何だか上機嫌であははと笑っている。こいつはいつもそうだ。私が嫌がってる所を見ると嬉しそうになる。
「今のオナラでしょ?臭すぎる」
「何言ってるんですか、そんな所も丸ごと愛して下さいよ」
「無理!!」
いやまあ、好きな人だって排便はする。汚い一面はある。それも含めて愛せ、というのは至極真っ当な理論な気がしたが、如何せん臭い。とにかくこの男、屁が死ぬほど臭い。あと頻度が多いし、なんなら一分間もぶっこく事も出来るらしい。私は聞いた事ないけど、うっかり出くわした彼の親戚は瀕死だったらしい。可哀想に。
「今のオナラ、どれくらい臭かったんですか」
そう聞かれて、私はうーんと唸る。彼の部屋、ロフトベッドの上でゴロンと寝転がりながら彼の身体に身を寄せた。そして訥々と語り出す。
「うちの実家の近所にあるスーパーにね、ゲーセンがあるんだけど。歩道から入口に至るまでのスロープがあって。歩いたらめっちゃ牛糞の臭いすんのね。牛小屋でも近くにあんのか、ってくらい。それぐらいやばい」
「あっははは!!」
え、今の笑う所あった?私、未だに付き合ってこの男の笑うポイントが分からない。とにかく変な所で笑う。
「りあさんて面白いですねえ!あっははははっ」
「どこツボったの」
全く分からない。何処におもしろ要素があったんだか。でも……
「まあ面白いならいいけど」
そう言って、私も諦めの笑みを浮かべる。布団をまくっては外に臭気を逃がした。私と彼は付き合って一年。最初の頃みたいにラブラブ、とは行かなくともそれなりに何とかやってきた。昔の私じゃ男の人と付き合うなんて考えられなった。それまでは乙女ゲームをやって、恋に恋をしてきた。でも理想の人には出逢えなかった。やっと掴んだ幸せは……淡くて、脆かった。
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