2.クリームソーダ、プリーズ

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 下校という名の調査の開始だ。彰と桜澤は校庭脇の石畳の道を、普通よりやや離れて並んで歩いた。桜澤の左肩では今日もバイオリンケースが揺れている。 「桜澤ってオーケストラ部なの?」  頷きが返ってくる。おや、と思った。 「……部活っていいよな。あそこのサッカー部もそうだけど、青春満喫してるって感じがして。俺も何かやればよかったかな」  表情に変化はなかったが、部活の話をした途端、桜澤の中で何か暗い感情がうごめいた気がしたのだ。オーラを探りながら歩いていたので恐らく勘違いではない。 (まあ、触れてほしくないことの一つや二つくらいあるわな)  上半分に洒落た図形が施された校門を通り抜けたところで、一度立ち止まって呪いの様子を確かめる。高校前の歩道は綺麗に整備されていて、生徒の下校を待つ車が二台路上駐車していた。ドイツのメーカーのエンブレムが午後の日差しを高飛車に反射している。  街路樹のイチョウはまだ若木だった。見事な黄色に変身する予定の緑の葉を茂らせている。その細い木々や立ち並ぶ小さなビルの傍らをゆったりペースで進み、様々な車が引っ切りなしに行き交う国道に出ると、そこでまたチェック。騒がしい走行音のせいではなく声は聞こえない。それを繰り返している内に、いつの間にか最寄り駅の前まで来てしまった。 「ここでも無理そう?」  桜澤が口を開けて何かを言おうとする。ダメなようだ。彰は腕を組んだ。 「学校だけじゃないみたいだな。うーん、もっかい確認。家ではしゃべれて、近所の店でも問題なくて、ここまでの通学路はダメ……どこか別の場所行ってみるか?」  時間平気? と尋ねると、桜澤はスマホを取り出した。時刻を見るのかと思ったら真剣な顔で文字を打ち始める。  完成した文章は意外な内容だった。 《二駅隣に行きたいカフェがある。よかったら行きませんか?》  ちょっと待て桜澤奏多。恨んでいるのではないのか。それともこれは罠――。  驚きと共にそんなことが脳内を駆け巡ったが、彰は全てを封じ込めてニッと笑いかけた。 「OK、そこ行こう。やっぱり帰宅部最高だわ」  
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