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太陽がまばゆく照っている朝の屋上に、秋の空気を帯びた風が吹く。とはいえ、日陰がないせいか急な展開のせいか、どちらかというと暑いくらいだった。
彰はひとまず桜澤奏多を一緒にベンチに座らせて、コミュニケーションを試みた。
「そう言えばまだ名乗ってなかったわ。俺、三組の森田彰。とりあえずよろしく」
ペコリ、とお辞儀される。この澄ました顔の裏で自分を恨んでいるのだろうか、と不安な気持ちが過ぎったが、一旦脇に置いておく。
「それで、声は急に出なくなったの? 風邪じゃなくて?」
頷く。
「声の他には問題というか、思い当たることはない?」
頷く。シンプルな反応が大人しい子どもみたいでちょっと可愛い。
「……なーるほど。大体分かった」
やれやれ、という思いで彰は数秒間目を閉じた。
「いつもだったら二億円くらい請求するとこだけど、アメ十個におまけするわ」
瞬きする桜澤に笑いかけて立ち上がる。自信を持って断言した。
「俺に任せといて」
屋上を出ると、彰は二重の目を気怠く細めた。ネガティブなものを招くのでため息は吐かない。
「大体分かった」のは桜澤のオーラのことだ。全体的に塞いだような陰鬱な気分が薄らと漂っていて、本人も苦しそうではあるが、これでは滞在中のエネルギーが傷ついて呪い返しが偉いことになる。あのオーラは何とかしなければ。
ただ、今観察した限りでは、誰かに対する強い恨みというものは感じられなかった。正直ほっとしている。でも、母親の発言が気にかかる。もしかすると、他の感情に紛れていて見落としてしまったのかも知れない。
オーラの中に他の人のエネルギーも混ざっているようだったが、これは誰かに好意や悪意を向けたり向けられたりで簡単に起こることなので、きっとその辺の女子生徒から飛んできたものだろう。放っておいても一応大丈夫だ。
そして呪い――桜澤には彰とは無関係な呪いが一つ、はっきりとかけられていた。別にこれも放っておいてもいいのだが、あの暗いオーラが呪いで声を失ったせいなら無視できない。
もっとも、任せろと言ったのは単にプライドの問題なのだが。
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