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「それで……今観察していると、他にも呪いがありそうなんですよね。それが声の呪いだと思うんですけど……」
何だろうこれは。黒い煙のようなものが薄らと、思念のエネルギーの波に紛れて漂っている、そんな印象のある呪い。判別しやすい竹内の呪いに気を取られて見落としてしまう訳だ。感覚を研ぎ澄ませてその呪いの正体を捉えようとしても、埋もれないように気配を追うのでいっぱいいっぱいだった。グチャグチャした負のオーラがもう少し整ってくれば違うのだろうが――。
フーッと、細く長い息を吐く。視線を正面に戻すと、気まずそうに唇を引き結んでいる桜澤と目が合った。彰の頬が熱くなる。オーラを調べる目的とはいえ、初対面に近い相手の顔回りを無遠慮に眺め回したのは完全にヤバい奴の行動だ。
(変な誤解、されてないよな?)
「……失礼しました。今分かるのはそのくらいなんですが、この呪いは必ずどうにかします。そこで、桜澤さんの声の状況をもう少し知りたい……ん?」
三回ほど口が動いたが、今度は解読できなかった。読唇術の勉強をするべきか。
桜澤はスマートフォンを取り出して、あまり速くないスピードで文章の入力らしきものを始めた。画面がこちらに向く。
《何で俺のためにそんなにしてくれるの?》
相槌レベルではない初めての言葉だ。彰は迷子の外国人に英語が通じた時のような感動を覚えつつ、真顔で言った。
「悔しいから」
『え』
「呪術の名門に生まれた身として、呪いで負けてられるかよ。あー、今思えば余裕で解呪できると思ってたのも腹立つ!」
もちろん、自分への呪い返し対策の件もあるが、胸に燻るこの感情は悔しさだ。
仮に声が出せたとしても、言葉に詰まっていたに違いない。桜澤はそんな困ったような唖然としたようなぼんやりした表情を浮かべて、彰のことを見つめた。
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