破られた平穏

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「よし、一丁上がりね。まったく、白昼堂々盗みを働こうなんていい度胸だわ」  人混みから声がして、腕組みをしながら一人の女が現れた。  年の頃は二十代後半くらいだろうか。すらりとした長身を水色のコートで包み、細身の黒のズボンの裾からヒールの高い靴が覗いている。立てたコートの襟元からはほっそりとした首筋が覗き、サイドに垂らした藍色の長い三つ編みが首にかかっている。手には細長い金属製のステッキが握られ、先端には小さなサファイアがついている。顔立ちは利発的で、ちょっとやそっとのことではへこたれない意志の強さを感じさせた。 「よう、リビラ! ありがとな! お前のおかげで助かったぜ! さすがは『水晶魔術師(クリスタル・マジシャン)』だな!」  同じく人混みから出てきた黒エプロンの店主が顔を綻ばせながら言った。辺りからも同様の歓声と拍手が上がる。 「当然よ。あたしの目の黒いうちは盗みなんてさせるもんですか!」  リビラと呼ばれた女が腰に手を当てて言い、手にしていたステッキをかんと地面に打ちつけた。その頼もしい姿に周囲からまた喝采が上がる。  そんな中、人混みから離れてリビラを見つめる一人の少女の姿があった。  年の頃は十代後半に見えるが、青い髪をおかっぱにしたヘアスタイルが幼さを感じさせる。小柄で華奢な身体を、裾部分に波模様のある白いケープで包み、青色の短いフレアスカートを履き、リボンのついた白のショートブーツを合わせている。手には金色のロッドが握られ、先端にはやはり大きなサファイアがついている。見るからに気弱そうで、上目遣いにコートの女性を見つめる表情には自信のなさが現れている。住民がリビラを褒めそやす中、少女は唇を噛み、溢れ出る感情を必死に抑えようとするかのように、両手をぐっと握り締めている。  確かにリビラの活躍は目覚ましいものだった。彼女がいなければ貴重な水晶が盗まれるところだった。だから人々が彼女を称えるのは当然。それはわかっている。  でも少女は悔しかった。同じ水晶魔術師でありながら何の活躍もできず、住民と同じように事態を眺めるしかなかった自分が、不甲斐なくてならなかった。
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