仮面の医師

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「あ、ごめんなさい! レイク先生。薬草をもらいに来たんですけど、お邪魔でしたか?」シリカが慌てた様子で言った。 「いや、構わないよ。もう診療は終わったからね。ではヘーデルさん。後は家に帰って安静にしていてください」 「へぇ、何でも先生のおっしゃるとおりに致しますじゃ」  ヘーデルと呼ばれた老婆はへこへこと頭を下げると、小瓶を宝物のように胸に抱えて診察室を出て行った。 「レイク先生ってば、相変わらずすごい人気ですね」シリカが顔を綻ばせた。 「朝から診療所の前に大勢人が並んでるの見ました。みんな先生のこと頼りにしてるんですね。」 「この街には医者が一人しかいないからね。みんな仕方なく僕のところに来ているだけだよ」 「そんなことないです。先生の診察はすごく丁寧で親切だって評判なんですよ。先生がミストヴィルにいてくれて良かったって、みんないつも言ってます」 「だといいけどね」レイクが苦笑を漏らした。 「それで? 薬草というのはやはり霧青花(ミスト・ブルーム)かい?」 「あ、そうなんです! よくわかりましたね?」 「またリビラのお使いなんだろう? 最近の彼女の噂を聞いていればわかるよ」  レイクが呆れ顔で肩を竦めた。  水晶魔術師といえども無尽蔵に力を使えるわけではない。魔力を回復させるには一定の時間がかかるが、賊との戦いの最中に力が枯渇すれば命取りになりかねない。だが、霧青花を使えば魔力を一瞬で最大値まで回復できるため、水晶魔術師の間では重宝されていた。 「近頃のリビラは魔力を使い過ぎだね」レイクが渋面を作った。 「彼女が困った人を放っておけない性分なのは知っているが、水晶魔術師は何でも屋じゃないんだ。街の人達も何かあるとすぐに彼女を頼ろうとする。少しは自分の手を使うことを覚えるべきだね」 「でも……それはお姉ちゃんが街の人に好かれてる証拠じゃないですか。自分の恋人が街の人気者になって、先生は嬉しくないんですか?」 「僕はリビラが心配なだけだよ。彼女はいつも自分のことを後回しにして他人のために奔走している。水晶魔術師になってからは賊の討伐も加わって休む暇もない。今は平気な顔をしているが、僕はいずれ彼女が倒れてしまうんじゃないかと思っているんだ」  レイクはそう言ってため息をついた。  そう、ミストヴィルの誇るこの若き医師は、同じくミストヴィルの希望であるリビラの恋人なのだ。
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