仮面の医師

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「霧青花は渡すけど、あまり使い過ぎないようにリビラに言っておいてくれ。薬草を集めるのも大変なんだ」  レイクはそう言って薬品棚に向かうと、奥の方から数本の花を取り出した。葉のような形をした大ぶりの六つの花びらを広げた、鮮やかなブルーの花。これこそが水晶魔術師の力の源、霧青花(ミスト・ブルーム)だ。 「わぁ……いつ見ても綺麗」シリカがうっとりと薬草を見つめた。 「確かこれって、満月の夜にしか咲かないんですよね?」 「あぁ、非常に貴重な薬草だ。本当ならこんなに頻繁に渡せるものじゃない。……まったく、リビラのわがままには困ったものだよ」  レイクは肩を竦めたが、シリカには彼の言葉が本心ではないことがわかっていた。リビラは水晶魔術師として、一人でも多くの人の役に立ちたいと思っている。レイクはそんな彼女の願いを叶えるために、普段からこの貴重な薬草を集めてくれているのだ。 「調合の方法はいつもの通りだ。もし上手くいかないようならすぐに言ってくれ。僕が家まで調合しに行こう」 「あ、それは大丈夫です! 私、調合は失敗したことないので。……魔法はいつも失敗するのに、おかしいですよね。」  シリカは自嘲気味に笑った。  シリカがレイクの下で薬草の調合を習い始めたのは半年ほど前のことだ。レイクが鮮やかな手つきでいくつもの薬を調合するのを見て、自分もやってみたいと思って始めたのがきっかけだったが、これが驚くほど上手くいった。シリカが作った回復薬をリビラが実際に使ったこともあり、リビラもまた妹の意外な才能に驚いていたようだった。このままレイクの下で薬剤師になった方が、よっぽどみんなの役に立つかもしれない――。そう考えたことは一度ではなかった。 「何、焦ることはないさ。君はまだ十七歳だろう? リビラが水晶魔術師になった時はすでに十八歳だったんだ。それに彼女だって、最初から氷結召喚を上手く使えていたわけじゃない。君には君のペースがある。努力を重ねていれば、必ず報われる時は来るさ」  安心させるように微笑むレイクを見て、シリカも表情を綻ばせた。レイクにそう言われると、本当に大丈夫な気がしてくるから不思議だった。
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