仮面の医師

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「それじゃあ、僕はまだ診察が残っているから。リビラによろしく言っておいてくれ」 「はい! ありがとうございました!」  シリカは勢いよく頭を下げると、霧青花を胸に抱え、足取り軽く帰って行った。  レイクは微笑みを浮かべたままシリカの姿を見送っていたが、扉が閉まり、彼女の姿が見えなくなると途端に笑みを引っ込めた。能面のようなその顔には暖かさの欠片もなく、シリカを慰めていた彼とは別人のようだ。 「リビラ……。君は昔から変わらないね」  人気のなくなった診療所で、レイクは一人呟いた。 「君は自分に絶対的な自信を持ち、自分が正しいと思う道を突き進んでいる……。  だが……君は気づいているのかな? 君が太陽のように輝けば輝くほど、周りの人間は影として生きるしかなくなることを……」  診療所の窓にレイクの姿が映る。銀縁の眼鏡の奥に見える瞳は驚くほど冷ややかだった。とうの昔に捨て去ったはずの感情が、再び彼の中に疼き始めていた。  初めてリビラに会った時に生じた感情――恋慕でも慈しみでもない、抗いがたい嫉妬心が。
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