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不吉な来訪者
その夜、ようやく診察を終えたレイクは、診療所で今日一日の患者のカルテをまとめていた。子どもから老人まで、実に多くの患者が診療所を訪れては、取るに足りない痛みや症状をさも大病であるかのように訴えていった。レイクはその一つ一つにじっくりと耳を傾けてやりながら、何故彼らはこんなにも病院に来たがるのだろうかと内心訝っていた。
患者の訴えの多くは誇大広告で、診察してみればどこにも異常はないことが多い。それなのに彼らは、まるで不治の病に陥ったかのような口振りで、自分がいかに過酷な状況に置かれているかをわからせようとする。それはきっと、ありもしない病気を持ち出すことで、自分が人とは違う存在だと思い込みたいからなのだろう。――かつての自分と同じように。
レイクの両親は共に水晶魔術師だった。両親は、息子が自分達の跡を継いで水晶魔術師になることを疑わず、レイク自身も、自分はいずれ水晶魔術師になるのだと信じていた。
だが、通常であれば五歳頃までには自然に魔力が発現するところ、レイクは七歳になってもその兆候を見せなかった。
両親は最初、レイクが単に遅咲きだと思っていたようだ。今はまだ力が眠っているだけで、この子は内に強大な魔力を秘めているのだと頑なに信じていた。レイクもその期待に応えようと、魔力を発現させる方法が書かれた本を読み漁ったり、魔力を高めるのに効果的とされる薬草を大量に摂取したりした。
だが、そんな努力の甲斐もむなしく、レイクの魔力が発現する気配は一向になかった。
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