破られた平穏

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氷結召喚(フリージング・サモン)!」  切れのある声が辺りに響いたのはその時だった。若者が咄嗟に足を止める。 (何だ、今の声は?)  若者は辺りを見回したが、何も起こった様子はない。 (空耳か……)  若者は気を取り直すと、さっさと立ち去ろうとした。  だが次の瞬間、水の轟くような音が辺りに響いたかと思うと、たちまち運河の水が空高く噴出した。  若者は驚いて足を止めた。舞い上がった水は細かな粒となってゆっくりと地上に落ちていき、光を反射しながら次第に凝固し、地面に積み重なって何かの姿を形成していく。四本の足、胴体、尻尾、(たてがみ)、首、そして角の生えた頭――。  若者の前に現れたのは、氷でできた一角獣だった。 「な……何だこいつ!?」  さすがに度肝を抜かれたのか、若者は目を剥いて立ち止まった。一角獣は身動ぎ一つせず、静かな目で若者を見据えている。心の淀みを照らすような冷厳な眼差しを前に、若者は背中がぞくりとしたが、すぐに忌々しそうに舌打ちをした。 「けっ……こんなもん、どうせただの置物だ!」  若者はそう言い捨てると、さっさと一角獣の脇を通り過ぎようとした。  その時だった。それまで微動だにしなかった一角獣が、突然前足を上げて(いなな)いたかと思うと、若者に向かってまっすぐに突進してきたのだ。  若者はぎょっとして立ち止まった。鋭い氷の角が今にも目を抉りそうで、若者は恐怖に悲鳴を上げた。  次の瞬間、身体が宙に浮き、若者は目を瞬かせて足元を見下ろした。衣服が一角獣の角に貫かれ、宙吊りの格好になっていた。角の先端は顎の三ミリほど手前で止まっていた。少しでも身動きを取れば自分の顎を突き刺すだろう。 「くそっ、何なんだよ……」  若者は観念したようにがっくりと両手を下ろした。盗み出した水晶がばらばらとこぼれ落ちる。
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