売り物の愛は逃げたがり

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 青年は、黙って手元の紙袋からなにかを取り出した。  それは、パンだった。焼き立てらしい香りが鼻をかすめ、リオは咄嗟に手を出す。毒物が入っているかもしれないなんて、考える余裕などなかった。奪い取るように手に入れ、かぶりつく。涙が滲んだ。パンの味。バターの香り。柔らかな食感。温かい。旨さに気が狂うかと思った。息を荒げて食べきると、また目前にパンが差し出される。ぼろぼろとなみだをこぼし、鼻をすすりながら貪った。 「うまいか」  かけられた声にようやく頷けたのは、いくつパンを平らげた頃だったろうか。 「うん」 「そうか。……なあ」  パンをくれた青年は、目前にしゃがんだ。真っ白な髪の下で、血のように赤い瞳が笑う。 「もっとうまいもん食わせてやる」  歯を見せて笑い、男は手を差し伸べた。 「一緒に来ねえか、なあ」  それが、始まり。
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