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「さっすが稼ぎ頭だなぁ。今日も今日とて売上トップだ」
札束を弾き、オウルが片頬を歪める。テーブルを挟んだ向かい粗負に居心地悪く座りながら、リオはちいさく頷いた。
「で、だ。人気者のお嬢ちゃんはなにをご所望だ?」
これは、いつもの儀式だ。売れ行きの商品とその所有者の、言うなれば主従関係のふたりの、褒美の時間。
「ほら、言ってみろ。なにが欲しい」
札束が机に放られる。それを見下ろし、リオは軽くうつむいた。長めの前髪が、目元を邪魔する。ぽつりと、声を吐き出した。
「……あんたが、ほしい」
「どうして欲しい?」
なんて、軽く紳士ぶった言葉はかけられない。
「あんたの好きにして」
なんて、淑女ぶった言葉は呟かない。ただ──互いの欲を貪るだけ。リオは自身を売った金で、ただ一日をなぞるように、抱いてくれる男を買った──ただ、それだけだ。
感覚の過敏になった薄い胸を、熱い舌が這う。ぴくり、と身体が跳ねる。ああそうだ、俺はこの人を金で──買っただけだ。本当に抱いて欲しいひとに身体を預ける──売る──買う──ただそれだけ。
「相変わらず敏感だなァ」
オウルが嘲るように言う。その吐息だけでも、甘く達してしまいそうになる。リオは精一杯の虚勢で、口角を上げた。
「売りもんなんでね……っ」
「一日中色を売っといて、元気なもんだぜ」
舌が、皮膚を、ゆっくりと辿る。迷いなく、けれど、狡猾に、焦らすように、ゆっくりと。
下へと下がって行く頭を、リオはそっと捕らえた。兎の毛のように白い髪を、柔く掻き混ぜる。
「ん……っ」
捕らえたはずの頭は、すでに届くべき所へと届いていた。リオが声を上げると、オウルはかすかに笑う。火照り、疼くそこを咥え込み、彼は愛撫を続ける。
「ぅ、あ、……くぅっ」
抑え込んだ声は、日がな立て続けたわざとらしいほどの嬌声とは違い、かえって生々しい。
「……ふ、気持ちよさそうな声出しやがる」
いじめるような笑声は、リオの興奮のつぼを本人以上に理解したものだ。リオはすでに潤み始めた視界にオウルを収め、快楽に痙攣する身体を嘲笑うように口端を歪めた。
「……っはは、あんた、ほんと……っ、売りやった方がいいんじゃないの」
「馬鹿言いやがる」
オウルはほんの僅かな間口を離したきりで、請け合う様子はない。請け合われたらそれはそれで、リオは余計に腹の奥が渦巻くだろう。そんなことは自分でもよくわかっていた。だから、この人のプライドの高さは都合がよかった。
「いいモン持ってんのに、勿体ねぇなあ」
オウルがせせら笑って、リオのペニスを指先で弾く。思わず漏れかけた声を、必死に手の甲で押し留めると、オウルは先走りに濡らした指先を後孔へと当てがった。
「どうして欲しい?」
このごに及んで、揶揄うように囁かれた言葉に、返すべきは一言しかない。
「…っ、あんたの、好きにしな、よ」
「上等」
指が、関節の太い彼の指が、体内に忍び込む。遠慮なく突き立てられた指は、昂ぶるリオの熱を嘲るようにゆっくりと満足げになかをほぐしていく。
「…っは、あ、…っ、そ、な、丁寧にしなくて、いい…っ」
過敏な身体を跳ね上げながらのリオの強がりに、オウルは薄い唇を歪に吊り上げた。
「売りもんがナマ言うんじゃねえ」
声が詰まったのは、快楽のせいだ。売り物なのは、はなからわかっている。だから。
「…大事にいたぶってやるからよ、存分に味わえ」
低く囁いた声は、今夜のまやかしに丁度いい。
すべて、すべて、まやかしだ。
渦巻く気持ちも、熱い吐息も、挿し入れられた太い指も──乖離してまやかしの快感に溶けるために、リオは涙の滲む瞳をそっと閉じた。
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