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リオははっとして首を振る。
「嫌っていうか、」
「おう」
わかっていそうなものを、当然のようにオウルは相槌で促した。
「嫌っていうか?」
「……えっと、……えー……びっくり、みたいな」
くっ、とオウルが噴き出す。
「なんだそりゃ」
「だ、だって、あんたと外出とか、全然したことねえし、」
「おう、そうか、びっくりしたか。悪かったな、びっくりさせてよ」
口元を軽く覆い、くつくつと喉で笑う。馬鹿にしている。どう足掻いても、馬鹿にしているようにしか見えない。束の間の浮かれた気分は急速に萎んで行き、リオは半目でオウルを睨んだ。ふいと視線を逸らす。こいつはいつもそうだ。こっちが必死に尻尾振っても、お手おかわりと応じても、小馬鹿にしてくる。その程度なのだ。大きめのシャツの袖を捻り、唇を尖らせた。
「……やっぱいいや」
「あ?」
「行かない」
「……何言ってんだ、ばかやろう」
親しい者に向けられるような笑いを含んだ声で、オウルは続ける。
「こんな貴重な機会、滅多とないぜ。勿体ないだろうが」
貴重だとか、勿体ないだとか。オウルは当然のように自分自身に使ってのける。リオには出来ない芸当だ。憧れの的でもあったはずのその口ぶりだが、今の不機嫌なリオにはそれすら鼻についた。
「……その機会さ、案外、どこにでも転がってるんじゃねえの」
「は?」
「ヤれそうな女──まあ、男もか……そういう安価なペットなんて、あんたなら造作もなく見つけられるだろうし」
リオの口元には、また、髪と似た曇天色の瞳には、いつの間にか笑みが滲んでいた。ひっそりとした、薄暗く嘲るような笑み。伏し目がちの瞳は、ただ濡れたタイルの床を見つめている。だから気がつけなかった。すぐそこに、オウルが迫って来ていることに。
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