保管

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「今日は結婚60年目ですって。…お互い年を取りましたね」  私は細くシワだらけになった、飾り気のない自分の左手をさすった。 「今日ぐらいは付けましょうか」  そう言って薬指に結婚指輪をはめる。  そして、主人の動かない左手薬指にもそっと結婚指輪をはめた。  その手も肉が削げ落ち、指輪がゴソゴソだ。 「手を振れば、飛んで行っちゃいそうですね」  カラカラ、と私が笑う。  主人は黙ったままだ。  主人は5年前脳梗塞を起こし、それ以来意識はあるが、寝たきり状態だ。  今私達は娘夫婦を始め、沢山の人たちに支えられて生きている。  この指輪も、沢山の人たちにお世話になった。  無表情の主人の目から、ひとすじの涙がこぼれた。 「あら。もしかして一緒の事を考えていましたか?」  私はふふっと笑い、指輪を見つめた。  結婚してからこの60年の間に、この指輪は1度切断された他、更年期の頃の指が太ってしまった5年間にジュエリーケースで眠っただけでなく、合計3度紛失した。  最後に紛失した時は、スーパーで買い物をしている時に抜け落ちてしまったらしい。  その日を境に主人の指輪と揃ってジュエリーボックスで保管することになった。
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