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決意
17年前、咲良がお腹に宿って7ヶ月になろうとしていた頃だった。
仕事も辞めのんびり過ごしていたせいか、体重増加が著しかったあの頃、自分の手がひと回り大きくなっていることに気がついた。
その頃私は婚約指輪と結婚指輪のダブルはめをしていた。
キツい、と思ったわけでは無いが、2本の指輪が指の肉に埋もれかけている様に見えた。
「これ、ヤバくない?」
慌てて手に泡をつけ、1本目の指輪から抜こうとする。
だが関節の辺りに差し掛かると、拷問のようなとてもじゃない痛みが発生し、何度も試す事で心が折れた。
パソコンからネットで「指輪 抜けない」と検索する。
糸を巻き付ける方法を試してみるが、それでも関節の地点を超える気配は全くなく、その上どんどん薬指の色が悪くなってくる。
指が浮腫んできたのか、糸を外しても指の色は改善されず、更に浮腫んできた。もう、1本目と2本目の指輪の間の肉も浮腫み、1本目を元の位置に戻すことすら出来なくなっていった。
私の目には、薬指の色が青いを通り越して黒い様に思えた。
壊死による指の切断、が一瞬頭をよぎり、恐怖する。
何故か立っていられない、全身が苦しい、に近い痛みを薬指から発せられてた。
左手を胸に押さえ込み、徒歩5分ほど離れた実家に電話をする。
私からの電話を受け、父の運転で母が駆けつけてきた。
「調べたら消防署で指輪を切ってくれるそうよ!」
結婚指輪を切る、なんて普段であれば絶対拒否をするだろう。
しかしその時の私はとにかく今の状況が良くなるのであれば何でもいい、そんな思いだった。
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