赤いマフラーが大学入学共通テスト前に私の味方になってくれた

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2  拾い上げると、それは五円玉だった。まだ新しい硬貨なのだろうか、磨かれているかのように綺麗な状態だった。朝の陽の光に照らされ、ピカピカと輝いている。どこから転がってきたのだろうか。私は周囲を見回した。 「すみませーん」  後ろの方から声がした。振り向くと、誰かがこちらに向かって走ってくる。冬用の制服を着て首元に赤いマフラーを巻いた女子高生。私と同い年のようだ。おそらく、私と同じく共通テストを受ける受験生だろう。このバス停に来たということは会場も同じに違いないと私は推測する。  彼女は私に至近距離まで来ると、ゼェゼェと息を切らし、膝に手をついた。間近で見る彼女は同性の私ですらドキッとさせられるほどの美人だった。セミロングの茶髪が陽の光に当たって、滑らかさが際立つ。紅潮した頬。上向きに生えている長いまつ毛、透明感のある黒真珠のような瞳。乱れた髪を右手で直す仕草にそこはかとない色気を感じる。  私はその美しさに気圧されながら、おずおずと拾った五円玉を右の掌に乗せて差し出した。 「あの、これ……。転がってきたんですけど……」  彼女はその五円玉を見て、ホッとした様子を見せる。 「はい。それ、私のです。財布から落としちゃって、どんどん転がっていって……。かなり焦りました。拾ってくれて、ありがとうございます!」  そう言って、女子高生は五円玉を受け取った。ここで少し疑問に思ったので私は彼女に尋ねた。 「あの、差し支えなければ……教えて欲しいんですけど……何故、五円玉を?」 「……はい?」  彼女が怪訝な表情で首を傾げたので、私は慌てて言葉を紡ぐ。 「あぁ、いや、変な質問ですみません! 街中で財布を開く時って、自販機で飲み物を買う時くらいかなって思ったんですけど。自販機って、使える硬貨は十円と五十円と百円と五百円ですよね。だから、五円玉を落とすってあんまり無いかなって思って……。でも、必ずしもそうとは限りませんよね。バスの運賃を確認してる時にたまたま落とした可能性もあるし。っていうか、何でこんな質問を初対面の人にいきなりって話ですよね! 本当にすみません!」  慌て過ぎててんやわんやになった。支離滅裂な言葉を並べてオロオロしている私を見て、彼女はクスッと笑った。そして、唐突に私に尋ねてきた。 「その質問に答える前に……。もしかして、今日の共通テストを受ける受験生さんですか?」 「え……。は、はい! そうです!」 「ちょっとだけ、時間ってあります?」 「え、は、はい。あんまり長くは無理ですけど、10分くらいだったら……」  私は腕時計を見て答える。私が一問一答を見始めてから、5分も経っていない。バスが来るまでにそれなりに余裕はありそうだ。  私の返答に女子高生は微笑んだ。 「じゃあ、ちょっと一緒に着いてきてください。試験前にピッタリな場所をご紹介します」  その言葉と同時に私の手を掴んだ。彼女に誘われ、私はバス停の裏にある細い路地に足を踏み入れた。
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