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細い路地を抜けた先には小さな神社があった。鳥居と手水舎と本殿があるだけの簡素な神社。社務所はなく、神主さんや巫女さんも居る様子はない。強いて言えば、手水舎の向かい側にある東屋みたいな場所にベンチと自動販売機があった。
あのバス停はうんざりするほど利用しているが、まさかその裏手にこんな神社があるなんて気付きもしなかった。そして、神社を見た途端に「五円玉」の意味にも気づいた。
「成る程! 五円玉はお賽銭だったんですね。ご縁(五円)がありますようにって意味で」
私が出した答えに彼女は頷いた。どうやら正解だったようだ。確かに試験前の受験生にはピッタリの場所だろう。試験の直前なんて、出来ることはもはや神頼みくらいしかないのだから。せっかく案内してもらったことだし、私はここでお参りすることにした。
手水舎で手を清める。冷たい水に身を竦ませる私とは違い、彼女の所作は優雅で上品だった。白魚のような白く透き通った手と指も美しく、思わず見惚れてしまった。
本殿の前まで向かい、私も彼女と同じように財布から五円玉を出す。彼女と顔を見合わせ、二人同時のタイミングで五円を賽銭箱に投げ入れた。
チャリンチャリンという小気味良い金属音が響き、耳に残る。私達は同じタイミングで二礼と二拍手を行う。パンパンという両手を叩いた乾いた音が冬の乾燥した空気を震わせ、境内にその音を響かせる。私は目を閉じ、ひたすらに祈る。今日の試験、そして2月の本番の試験の成功を。
(どうか……どうか……私の受験がうまくいきますように。良い結果を残せますように)
念入りに神様に向かって祈りを届け、私は一礼をした。隣にいる彼女は私よりワンテンポ遅れて一礼をした。
「じゃあ、お参りも済ませたし、バス停まで戻りましょうか?」
私がそう言うと、彼女は東屋を指差した。
「多分ですけど、試験会場近くのコンビニとか自販機って混んでますよね。せっかくだし、飲み物、ここの自販機で買っていきませんか?」
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